私は如何にしてフリー技術者になったのか その3

●嵐の予感

新体制になってしばらくすると、急に社員が集められ会社の方針云々の話になった。業績が悪いこと。立て直しのために、似て非なる新ジャンルに手を出すコトを決めたこと。その工場のために新規の土地を確保すること。新規の開発体制のために大型3Dプリンタを何台も入れること…色々と夢物語のような話をはじめた。

会社の建物の一階の元々資材部だった部分を改築し、外壁まで抜いてデカい3Dプリンタ導入してたのはさすがに笑ったな。入り口が小さすぎて、そのままでは入らなかったからな。そういえば、床もエラい補強してたっけか。

同時に二階の約半分を占めていたサービス部は一階の奥の小さな場所へ押し込められた。空いた二階は、元からあった営業部のエリアを拡大し、それらしく見栄えの良い小綺麗なオフィスになったんよな。建物の外観や階段など、外から見える部分も妙に小綺麗に改造していった。まぁ、それまでの外見があまりに昭和してたってのはあるんやが、明らかに実態からはカケ離れた小綺麗さには違和感しかなかったね。

そして、開発部の仕事は大半がその新ジャンルの作業になった。一応、既存製品の開発も平行してはいたが、ペースは遅くなった。大型3Dプリンタはそれまで見たこともなかったような品物をプリントしていた。全ては新ジャンルのためにってコトで。新製品のカバーの試作とかソレでやるんだそうな。

しばらくはそんな感じで色々な開発が続けられていた。試験機の試験のために出張したりなんてのも何度かあったね。それなりにカタチにはなっていってたと思う。ただ、根本の部分で「それで本当にニーズあるの?」という疑問は拭えないシロモノだったけど。

そうこうしている内に、急に社内の掃除?が始まった。古い在庫部品とかを全部捨てるというのだ。修理作業に使っていた部品が多かったので、さすがに捨てられるとマズそうなモンは個人的に隠匿し、本当のゴミだけを放り出したけど、かなりの量があったな。産廃業者の脱着ボディ車に2杯か3杯分ぐらいあったと思う。ここいら辺で、概ねヲイラ的な結論は出た。もう危ないな…と。

そしたら案の定、次はヲイラに対する嫌がらせが始まった。具体的には、別の拠点にある在庫を確認し、ゴミかそうでないかを判断してこいという指示だった。そして、どういうワケかヲイラの定期券を取り上げようとしていたようだ。ヲイラは素知らぬ顔でその拠点まで出張し、全ての在庫をざっと確認し、リスト化して飄々と戻ってきてやった。指示された通りの仕事は済ませてきたワケだ。どうやらコンサルの差し金でコンサルの子分がヲイラを追い出すべく、左遷として僻地に送り込んだつもりだったらしい。コンサルのオッサンが憮然とした表情でヲイラからの報告を聞いていたな。ざまぁ。

決定したら急げって奴で、そこでいくつかの客先に内緒で色々とお話をし、手筈を整え色々と辞める準備をした。準備万端となったので、冒頭のとおり会社を去ったワケだ。当然、有給休暇も全部行使してね。

後で聞いた話やが、どうやらそのコンサルも子分も、ヲイラが開発も兼任してたコトは知らなかったようだ。サービス部なぞ穀潰し部門だから辞めさせてしまえとでも思ったらしい。その新ジャンルを作るのに必要な部品の一部も、ヲイラが開発担当だったんやがね。辞めた後に聞かされて頭を抱えてたそうな。ざまぁ。