「時代はアナログ」アナログ的観点から見た基板パターンや実装方法

今度は、アナログ的観点から基板のパターンをどう扱う必要があるかに関する記述。デジタル回路は確かにとりあえず接続されてれば動く場合が多いのだけど、実際は考慮しといた方がイイ問題が結構あるよってお話。

●アナログ的観点から見た基板パターンや実装方法

最近はフリーの基板CADがリリースされ、誰でも基板設計ができるようになってきた。また、実際の基板を安く製造してくれる会社も増えてきた。そのため、誰しもが気軽に基板を発注するようになってきたのだが、そのパターンを見ていると時々非常に残念な設計になっているモノを見かける。ここでは、基板のパターンを設計する上でのアナログ的な注意事項について列挙していく。

1:パターン幅

ご存知の通り、基板はその表面に銅箔等で出来た回路を貼り付けてあるものだ。当然、その銅箔を電流が流れるわけだが、時々そこに電流が流れるというコトを全く意識していない基板に出くわすことがある。通常、多くの基板においては銅箔の厚みは35μmしかない。銅箔に電流が流れる事を考えた場合その断面積が重要なのだが、厚みが同じであれば後は幅で調整するしかない。ところが、この幅の調整をおざなりにしている基板に時々出会う。

ヲイラが設計する時のガイドラインとしては、概ね1mm幅で1A(常時)ぐらいを目安にしている。瞬間的にはもっと流れる場合もあるという感じ。デジタル回路の場合はあまり電流が流れるわけではないので可能な限り細いヤツ(0.2mmぐらい)で配線する場合が多いが、明確に電流が流れる回路の場合はこれを意識すると良いと思う。また、オーディオ関係等の場合はオマジナイの意味も込めてワザと太め(0.8mmとか1.0mmとか)で配線している。これは、電流容量の問題というよりは、分布定数の影響を回避する意味合いが強い。

2:クロストーク

電磁誘導の法則が問題になる例の一つなんだけど、パターンが長く並行に這わされてると、どれかのパターンを流れる電流が変化した瞬間に、隣のパターンに電磁誘導が発生し、パルスノイズが発生してしまう。特に大電流が流れるパターンの隣は非常に危険なので、そういう場所に別のパターンを這わすべきではない。また、インピーダンスが高いと簡単に誘導してしまうので、できるだけインピーダンスは下げる方向で設計する必要がある。

しかもこの問題は、基板の表裏でも発生する場合がある。特に薄い基板の場合、一方の面を流れる電流波形が他方の面のパターンに影響を及ぼすなんて事がある。典型的なのがマイコンのクロックに使うクリスタル回路で、最近は面実装の物が多いのだが、その反対面は可能であればベタアースにしておくのが望ましい。これは、クリスタルの回路が数μA程度しか流れないというとてもインピーダンスが高い回路であるコトに起因する。以前実際にあった例として、クリスタル回路の裏にモータの配線を引き回した結果、派手に動作させた時にデジタル回路がプッツンするというケースがあった。

3:ベタアースとGNDループ

最近はデジタル回路の基板が多いため、基本的に余った領域は全てアースで覆ってしまうコトが多い。いわゆるベタアースである。これは電源のレギュレーション向上や、ノイズ発散を防止する役割も果たしている。先のクリスタルのような一件もある。しかしながら、実はベタアースは万能ではない。使い方を誤ると、かえって動作不良を引き起こす場合がある。

アナログの、特にオーディオ周波数(20Hz~20kHz)を扱う回路(ヘッドフォンアンプとかエフェクタとか)の場合、実はベタアースを行うと少なくとも二つの面で問題を引き起こすコトがある。一つは他のパターンとの間の浮遊容量の問題。これはまさに、先に書いた分布定数の問題である。基板の材質やパターンの面積にもよるが、数pF~数十pF程度の容量を生じる場合がある。これがアンプ回路のどこかに作用すると、場合によっては想定外の周波数(数MHzとか)で発振を引き起こしたりする。出力コンデンサが存在していても微妙なノイズを感じる音になってしまうし、出力コンデンサレスならヘッドホンを焼くかもしれない。

また、両面基板のベタアースは多くの場合基板の外周を一周するため、それがコイルアンテナとなって電波を引き込み、ノイズの多い回路になったりもする。こういうのをGNDループという。高周波回路の場合はフィルタを設けてノイズをカットするコトも多いが、オーディオ周波数においては音質に影響してしまうため非常に困難な場合が多い。回路としては一切間違っておらず、抵抗やコンデンサの値も適切な値なのに、チャンと動作してくれないわけだ。

なお、余談だが実はGNDループに関しては単に基板の中だけでなく、システム全体で発生する場合も結構多い。そして、それが不可解なノイズにつながる可能性が低くないので、常に全体でGNDループが発生していないかをよく検討する必要がある。最近、デジタルオーディオ関連でUSB絶縁器(アイソレータ)が流行る理由もソコにあったりする。

こういった問題があるため、よほどその設計に自信がある場合でない限り、オーディオ周波数を扱う基板のパターンにはベタアースはオススメしない。どうしてもベタアースで設計したいのであれば、四層基板を使う事をオススメする。この場合、一層を全てGNDにすれば少なくとも基板外周を一周するコトによるコイルの効果は発生しない。ただし、この場合であっても配線とGNDとの間の浮遊容量は存在し、むしろより強固にコンデンサ成分が存在してしまうため、その影響を充分に考慮する必要があるだろう。

この手の配慮は単にオーディオ用だけでなく、アナログ的な動作を行うセンサ類にも同様に適用される。AD変換されるまでのセンサ回路は基本的にはアナログ回路で、しかも扱う周波数帯域は概ねオーディオ帯域に近いコトが多い。従って、GNDの引き回し等にも充分に注意をする必要がある。

4:共通インピーダンス

ベタアース問題とも近い問題だが、GNDの引き回しに関してはもう一つ考慮すべきコトがある。それはいわゆる共通インピーダンスの問題だ。GNDは全て0Vなのだから、どこをどう接続しても同じと思っている人が少なくないが、実はそれは大きな誤りである。特に小信号回路のGNDとパワー系のGNDをどこで接続すべきかは重要な問題で、これをミスると小信号回路側が非常にノイジーになってしまい、役立たずになる可能性さえある。

分布定数的に見ればわかるコトだが、基板のパターンも抵抗値はゼロではない。したがって、電流が流れるとオームの法則に従い電位降下が発生する。ある程度大きな電流になると、当然その降下も大きくなる。もし、小信号側のGNDが大電流の流れるGNDの途中に接続されていた場合、電源に近い側は同じパターン(=共通インピーダンス)を通過するコトになり、大電流に応じてその間の電位降下が変動してしまうため、小信号側はGNDから揺さぶられるコトになる。これでは正常な動作は望めない。しかも、タチが悪いコトに必ずアウトになるとは限らず、瞬間的に大きな電流が流れた時だけアウトになったりするので、問題を見つけにくかったりもする。

したがって、その影響が小信号側のGNDの電位まで変動させないように配慮する必要がある。具体的には、上記のような共通インピーダンスを無くす方向でパターンを引く。基板の中においては、電源端子のGNDがその最終出口になるワケなので、そこまではGNDを分離し、端子の部分で接続する必要がある。これが、一般にいう一点アースの手法である。

なお、この考え方は基板の外でも適用されるので、基板間配線においてもGNDの引き回しがどうなっているのかは、充分に注意する必要がある。

5:熱の問題

単純なデジタル回路の場合はあんまり考える必要がなくなったが、パワー系の場合はチップの熱を基板のパターンに逃がす必要があるケースがある。TO220とかTO252とかの分かりやすいパッケージなら意識すると思うのだけど、SMD系でチップのハラがGNDパターンになってたりするのは、ハンダが面倒なコトもあって放置されやすい。この手のはパワー系のトランジスタの類には非常に多く、ソコもきちんとベタハンダされていないと所定の性能が出ない場合がある。

6:部品の向きの問題

最近は減ってきたかもしれないが、今でも時々、実装の向きを気にしなければならない部品ってのが存在する。まず熱的な観点で言うと、発熱しそうな部品はできるだけオープンな場所に配置するのが望ましい。本来なら放熱器を使いたいトコロだけど、場所的に無理な場合、足掻き(笑)の一つではあるけどできるだけ風通しの良い場所に配置するという配慮が必要だろう。

スイッチングコンバータを作成する場合、回路に必ず大きめのコイルが入ると思う。このコイルが結構曲者で、流れる波形から考えれば容易に磁気ノイズを発生しまくってるというコトに気づくのではないだろうか。その磁気が発せられる先にパターンなり部品なりがあれば…ロクなコトが発生するのは目に見えているよね。これに関しては、基板上でもそうだし、基板配置や配線上も同様なので、できるだけトータルで考える必要がある。まぁ、可能であればシールドしてしまいたいトコロではあるんだけど。

(この章、ここまで)